水先人とは
海には、漁業をする人、船を操縦して人や物を運ぶ人、船を造る人、船や港の安全を守る人など様々な仕事をする人達がいます。
水先人(大昔から"パイロット"と呼ばれています。)は、船長の助言者という立場で船舶の操縦を指揮して船や港の安全を守る仕事をしています。
日本の港湾や内海、海峡など多数の船が行き交い、また地形や水路が複雑で気象や潮流の状況が厳しい危険な水域において、それらの環境に精通していない外国航路を航行する船の船長を支援します。
日本各地の港湾や内海に出入りする大型船に乗り込み、安全且つ効率的に船を導くことを業務とする操船の高度な技術者であり、港や水域の事情に精通する専門家で、日本中のほとんどの港や水域で活躍しています。
- 水先旗【H旗】
- この赤白の旗は、「私の船は水先人を乗せている」という意味を示す国際信号旗で、世界のどの港でも通じるものです。
水先人の役割
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船長の助言者
国際条約や各国の法令により、海上における船舶交通のルールが国ごとに定められており、全ての船舶はそのルールに従って航行しなければなりません。
日本周辺の海は漁船も含め大小様々な船舶が常に多数行き交っており、また、港の周辺では長さが300メートルを超えるような超大型タンカーやコンテナ船をはじめ各種の船舶が集中するので、我が国特有の船舶交通ルールが定められています。
船長は常に自分の船を安全に運航するための責任者ではありますが、世界各地の港の状況や気象・海象、船舶交通の実態等を把握することは不可能です。
そこで、それらの事情に精通している専門家である水先人の乗船を要請してそのアドバイスを仰ぐわけです。
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海上交通の秩序維持と海難事故の防止
日本で最も混雑している水域として、東京湾や大阪湾が挙げられます。
これらの水域で水先人乗船時に発生した事故件数と、非乗船時に発生した事故件数をもとに海難事故発生率を推計すると、非乗船時は乗船時の実に約9.7倍(※注1)の割合で事故が発生しています。このデータをもとに、非乗船時に発生した事故による被害損失額を乗船時のそれと比較すると、乗船時は年間で約880億円少ないとの推計結果も出ています(※注2)。
また、水先人は、船の交通秩序を保ち、多くの海難事故を回避することで、これに伴う油流出など地球環境の破壊をも未然に防いでいます。
※注1:社団法人日本海難防止協会が実施した「水先の効用に関する調査(統計分析による検討)」(平成12年3月)の結果
※注2:三菱総合研究所が設置した学識経験者等で構成する「水先技術評価研究会」の提言書「水先業務の果たす役割と質的高度化の方向性」(平成14年5月)によるもの
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国民生活と経済活動の側面サポート
島国で少資源国の日本に住む1億2千万人の生活を支えていくには外国から船舶で輸入される食糧、原材料及びエネルギー源等に頼らざるを得ず、また卓越した加工技術で製造された製品を海外に輸出するためにも船舶は不可欠です。
日本の輸出入貨物の99.5%、年間約9億トンが船舶輸送に頼っています。
日本の主要港に出入りする外航船は約9万隻と言われており、著しい船舶交通の混雑が発生しています。加えて日本の沿岸には良い漁場が多く、東京湾、伊勢湾、大阪湾及び瀬戸内海は有数の漁業生産の場でもあり多数の漁船が操業しているため、大型船の航行には大変な苦労が伴います。
日本の港湾でひとたび大規模な海難事故が発生すると、人命、財産、環境等に多大な影響を及ぼすだけでなく、日本の経済活動や生活にも支障が生じることとなります。
このような状況の中で我が国の船舶交通ルールに従い、事故を起こすことなく船舶を無事に港に出入りさせているのが水先人なのです。
つまり水先人は、国民の生活と産業に欠かせない船舶輸送における安全を側面から支えているのです。